過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
始動して数カ月のうちに、いくつかのドレスを完成させた。デザインが固まった段階で臨時で人を雇ってもらったため、裁断から縫製まではかなり速く仕上げられた。

「これいいじゃない! 待った甲斐があったわよ」

真由子がそう絶賛するのは、久々莉に頼んで手に入れたレースだ。なかなか出回らないだけあってかなり値が張るものの、それだけの価値はある。光沢の美しい銀糸が、シンプルなドレスを煌びやかに見せてくれそうだ。

「絶対に、このレースを使いたいと思ったの。一目ぼれだったのよ」

思わずうっとりと眺めた。隣に並ぶ真由子も同様だ。

「私も式を挙げる前にこの素材に出会ってたら、自分のドレスに使いたかったわ」

ため息を漏らす彼女に苦笑してしまったが、その気持ちは理解できる。久々莉がこだわって使っただけあって、本当に素敵な品物なのだ。


結局、拓斗と久々莉の関係は何も聞けないままでいる。あの日ふたりが一緒にいる姿を見かけて以降、この一カ月間は何もなかったし、詳細を聞くにはすっかり機を逃してしまったからだ。

それよりも時間は待ってくれないと、なんとか意識をドレス作りに向ければ、次第に夢中になっていった。
それがなんだかパリにいた頃の自分と重なる気がしたものの、あえて気づかないふりをしてきた。

この仕事は、拓斗から私が任されたものだ。フェリーチェにいた頃とは違って、全てが私にかかってくる。
『これは美香にしかできない仕事だ』と、進捗状況を報告するたびに言ってくれた拓斗の言葉が、今の私の心のよりどころになっている。

「材料もそろったし、メインのドレスもいよいよ形が見えてくるわね」

真由子の言葉に、未完成のパーツに目を向けた。

「そうだね」

幼い日に見た従妹のドレス姿を思い浮かべて、思わず目を細めた。

「もう一息、頑張りますか」

力強い真由子の言葉に頷いて、目の前のドレス作りに意識を戻した。

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