過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
それからすぐに、何事もなかったかのようにマルクと話し出した彼の様子に、ほっと息を吐きだした。どうやら目が合ってしまったのはそれほど気にしていないようだ。
親しげなふたりの様子から察するに、常連さんなのかもしれない。

知らず知らずのうちに強張っていた体から力を抜いて、マルクが出してくれたカットフルーツに手を伸ばした。

「日本から?」

一体、誰が誰に発した言葉だろうか。すぐ横から聞こえた気がして、そっと視線を向けた。
隣に座っている彼の姿勢がわずかにこちらに向けられているところを見ると、話しかけた相手は私らしい。同じ日本人だとわかると、緊張はしているが少しだけ警戒心が緩んでしまう。

「え? あっ、ええ。あなたも?」
「ああ」

次は何を言ったらよいのかと戸惑っていると、すかさず彼の方から話しかけてくる。

「仕事で?」
「まあ、そんな感じです」
「そう」

とくに私との会話を求めていたわけではないかもしれない。同じアジア系の人間を見かけて、挨拶代わりに声をかけたのだろう。短い言葉のやりとりはすぐに途切れてしまった。
私とは話が弾まないと判断したのかもしれない。それならそれで、自分の世界に浸れるからかまわない。
仕切り直すかのようにフルーツに手を伸ばしたその時、再び彼が声をかけてきた。

「名前、教えてくれる?」

彼との間にあるのは、同じ日本人だという大雑把な共通点だけだ。そんな相手に本名を教えてよいものかと、アルコールでどこかふわふわしながらも訝しく思った。そもそも答える必要があるのだろうか。

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