過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「相手に、未練があるの?」

一瞬考えたふりをしてみせたのは、私の小さなプライドなのかもしれない。実際は考えるまでもないというのに。
ただ、この人はそんな私を見透かしていそうな気がする。何も見逃さないというような意志の強い目を、直接見つめ返す勇気はない。
目の前に置かれた薄い水色のカクテルに視線を向けたまま、どう答えようかと言葉を探す。

「そう簡単に割り切れるものじゃないです。三年ちかくも付き合ってきたのに、昨日何の前触れもなく別れを突き付けられたばかりなので」
「そうか」

特に何の感情も感じないひと言に、私も口をつぐんだ。
拓斗はこちらの様子を伺いつつ、さらに踏み込んでくる。

「じゃあ、復縁を迫るのか」

それはできそうにないと、首を横に振って瞼を伏せた。
手を尽くしても、相手に拒否されてしまってはどうしようもない。
東京とパリは遠い。これだけ離れていては、足掻くこともさせてもらえないのだ。

朔也ときちんと顔を合わせて、お互いの思いや考えを伝え合えたら、たとえ結果は変わらなくとも私も納得できるのかもしれない。連絡を怠った自分が言うのもおかしいけれど。

「それが、できないんです。メールも電話も拒否されてるようで」
「付き合ってたんじゃないのか?」

一瞬ムッとした雰囲気を醸し出した拓斗の方を、チラリと見た。彼が不機嫌になる理由はわからないが、かいつまんで聞かせた私側だけの言い分だと、朔也はずいぶんと身勝手な男のように聞こえたかもしれない。

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