過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「こんなふうに女性を口説くなんて、一度だってない」
「ふうん……ん? それじゃあ拓斗は今、私を口説いているっていうんですか?」

なんだか、流しておくべきところで立ち止まってしまった気がする。
口にすべきでない疑問を口走ってしまったと気づいたときにはもう遅い。
拓斗は変わらず熱い視線を私に向けてくる。途端に居心地が悪くなってしまい、もともと触れていた壁にさらに体を寄せて視線を外した。

「そうだって言ったら、美香はどうする」
「どうって……」

考えてみれば、初対面の人とここまで打ち解けているだけでも普段の私にはあり得ないのに、さらに踏み込む度胸など持ち合わせていない。

「困り、ます」

なんとか発した言葉を、拓斗はくすりと笑った。

「なかなか手ごわそうだな」
「て、手ごわいって……」

単なる同郷の話し相手だと思っていたのに、どうやら本当に口説かれているのかもしれない。

「あ、あなたと違って、私は初対面の相手になびくとかしないだけです」
「俺と違う? 美香はまだ俺を疑ってるようだ。誓って言える。こんなふうに女性を口説いたなど一度だってない。なあ、マルク」

不意に話を振られたマルクだったが、まだ意識はこちらに向いていたようで、平然とした顔で頷いてきた。
けれど、いくらマルクの同意を得られたからといっても、私にとっては彼も初対面だ。そのまま信用できるわけがない。

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