過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「今の美香を、ひとりにしたくない」

そうささやかれた途端、涙が一滴零れた。
テーブルに落ちたしずくを目にしたとき、自分は寂しかったのだと思い知らされた。

住み慣れた国はずいぶん遠くて、右も左もわからなかったこの街でずっとひとりで頑張ってきた。それを誰かに褒めて欲しいとは思わない。

ただ、心細かった。

でも、誰にどうやって甘えていいのかがわからなくて、その気持ちをごまかすようにどんどん仕事にのめり込んでいくうちに、他は何も目に入らなくなっていたのかもしれない。一緒に働く仲間も、美しい街並みも、遠く離れた場所にいる恋人も。

こんな身勝手な女なのだから、愛想をつかされたって仕方がなかったのだ。
冷静に考えてみればわかることなのに、私はそれをほんの少しも理解していなかった。

「美香」

大きな手が、私の肩に回される。
初対面の男性に抱き寄せられてしまったというのに、抵抗する気になれない。流れた涙を隠すように、思わず拓斗の胸元に顔を押し付けた。
声も出さずに涙を流し続ける私の頭を、拓斗の手が優しく滑っていく。そのぬくもりが心地よくて、されるままになってしまう。

何かに縋りつかなければ、これまで築いてきたものが足下から崩れて落ちてしまいそうで、抱きしめてくれる彼の胸もとをぎゅっと握りしめた。

「美香、今夜は俺に慰めさせてくれないか」

ひとりでいるのはあまりにも惨めで、寂しすぎた。それまでの強い思いなど、切なげに発せられる彼の声音に一瞬で吹き飛んでしまう。

「俺を頼ってくれないか」

少し掠れた拓斗の声に、ついにコクリと頷いてしまった。

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