過保護な御曹司の溺愛包囲網~かりそめの妻かと思いきや、全力で愛されていたようです~
「捕まえに来たんだ、美香を」
「え?」

私を捕まえる?
一夜の相手を追いかけてくるとか、意味がわからない。

「信じてないだろう。あの夜と同じ顔をしている」

そういえばあの夜、彼の言うことに対して何回かうそだと思った気がしなくもない。いや、実際にそう言葉に出していたはず。
おまけに朔也の裏切りを聞いてしまえば、物事をそのまま受け止めてはいけないと心にブレーキをかけてしまう。

「信じてもらうために、まずは俺がどういう人物なのかを明かそうか。ほら、美香。これが俺だ」

差し出してきたのは一枚の名刺だった。若干指先の冷たくなっている手でこわごわと受け取ると、その表面に視線を落とした。

「うそでしょ」

あり得ない文字に、名刺を持つ手が小さく震えてしまう。

「くくく。名刺を見せてもなお、うそだと言われるとはな」

私の掠れた声に、拓斗はこらえきれないとでもいうように肩を揺らした。

「アローズグループ副社長、神山、拓斗」

覚えたての日本語を話すような、片言な発音になってしまう。
信じられない。無作法だとわかっているけれど、思わず名刺と彼の顔の間で視線を行き来させてしまった。

そうしている間に、拓斗は自身のスマホを操作してこちらに差し出してくる。
そこにはアローズのホームページが表示されていた。その副社長の紹介の欄にはたしかに〝神山拓斗〟と名前が紹介されている。そして、その横で健やかな笑みを浮かべる男性は、今目の前に座る人物にほかならない。

偽物の名刺なのではと一瞬思わなくもなかったが、ここまで見せられたら疑う気持ちもなくなった。

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