小さな願いのセレナーデ

それを見ながら野島さんは、大きくため息をついた。

「どうしても、考えていただけることはできないと」
「はい、非常に申し訳ないとは思っています。一度は成立しかけた話です。反旗をひるがえすような真似になりましたが、どうしても譲れません」

彼はまだ頭を下げたまま。更に深く頭を沈める。
野島さんは黙ったまま眺めていたが─一瞬ちらっと私を見ると、目が合った。

「そちらの女性が、お付き合いされている方で間違いないんですね?」
「はい、実は彼女との間に子供も居るんです」
「子供?!」
「はい、もうすぐ二歳の子です。男の子で可愛いんです。あ、パウポリスってアニメ知ってます?息子が大好きなアニメで」

どうやら野島さんは碧維のことは知らなかったらしく、目をぱちくりさせて私達を眺めている。
昂志さんは『いい父親やってます』風を演じたいのか、パウポリスの内容ついて話している。これには野島さんも、顔がひきつっていた。


「ずっと彼女は、日陰での生活を選んでました。でも子供も大きくなってきたので、そろそろこちら側に出てもらわないと…と思ってていたんですよ」

昂志さんは最後、爽やかな笑顔を浮かべて、野島さんにそう言っていた。

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