小さな願いのセレナーデ
この家は、私とお兄ちゃんと二人。たまにユキさんが助けてくれる。それで充分だった。
だけど事情を知る人でも、「あんなお兄ちゃんで大丈夫なの?」とはよく聞かれた。
「すっごく怖そうだけど」と。
まぁ、確かにお兄ちゃんは笑わない。何を考えてるかも分からない。たけど、私はすごく大切に扱われていることは充分に感じていた。だから私も心を許せた。
そのお兄ちゃんも、私と似たような境遇だったことは成長してから知ったことだ。
だからうちの家族は、親と子供で家族が分断していると言っても良い。
特にその決定的となったのは、私の高校進学の時だった。
私は音楽科の高校に進んで、バイオリンをもっと学びたいと思っていた。だけどそれを両親が反対した。
私がバイオリンを始めたのは九歳の頃。音楽家を目指す人達は、小学生に上がるまでにバイオリンを始めている人が多いから、私はキャリアという圧倒的なハンデがある。だからなるべく早いうちに、一流の人達の中でしっかりと学びたいと思っていた。