小さな願いのセレナーデ
「桐友に進学するなら、俺が協力する」
その言葉があって、私は桐友学園大学付属高校への受験を決めた。

「わかった、絶対に桐友に受かってみせる!」
そう決意した私に、お兄ちゃんは今まで見たことない、口角を上げた柔らかい表情で頷いていた。



ただその後、両親はようやくお兄ちゃんに言いくるめられて了承はしたものの、音楽科に進むことには手放しで賛成できないらしく、親子仲はギクシャクしていた。
特にお兄ちゃんへの結婚の催促が酷い時期と重なってたせいで、余計に。

「……あぁ、くっそ」

滅多に苛立ちすら見せないお兄ちゃんが、よく苛立った顔を見せていた。


「お兄ちゃん、あの……」
「瑛実は何も心配するな、今は好きなことだけをしてなさい」

そう言って私は、完全に突き放されていた。
巻き込みたくないという思いだったんだろうけど、やっぱり疎外感は感じていた。

苛立つお兄ちゃんの姿を見ながら、何度もこう思った。
家を出て行こうか、と。

家を出ていってもバイオリンは続けられる。普通の公立の音楽科に通い、バイトしながら生活すればいいんじゃないか、そう真剣に考えたこともある。
でも私のバイオリンは、この家の財力があるから続けられている。逆に言えば、何もない所から這い上がってまで、続けられる実力はなかった。
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