No rain,No rainbow
「はい。どうぞ」

手のひらに乗せられた林檎は、つやつやに光って、ずっしりと重たい。

夕陽がその赤さを際立たせている。

「オレも、迷ってたんです。買うの。2玉もいらないなって。」

にっこり笑うのは、あの日の男のひと。

今日はいちごじゃなくて、林檎。

「…あ、ごめんなさい、ぼーっとして。あの、今お金を…」

慌ててバックからお財布を出そうとして、落下しそうになる、林檎。

「「…わ…!!」」

揃った声で、同時にしゃがみこんで同時に林檎に伸ばした手は、同時に林檎を捕まえた。

一瞬、触れた手のひらの暖かさに、思わず泣きそうになって、焦った。

ぱっと離された手を、ただ羨ましく眺めた。

はっ、として。

そのタイミングで、

「セーフ、でしたね」

屈託なく笑う笑顔を見つめた。






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