政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
楓君が慣れた手つきでガーゼに消毒液を染み込ませて患部を消毒してから絆創膏を丁寧に貼る。

こんなことでドキドキする自分をまるで小学生のようだと心の中で苦笑したが、恋愛経験が全くないのだから最近の小学生よりも幼いような気がした。
ありがとう、と言って私は足を元の位置に戻した。

「戻らなくても大丈夫?」
「大丈夫」

大丈夫と言った彼はやはりどこか苛立っている様子で瞳の色がいつもよりも濁っているようにも感じた。

静寂につつまれるスイートルームで何と声を掛けたらいいのか考えていた。
先ほど楓君が言った“頑張らなくていい”というワード。
私のことを思ってパーティーに連れてこない予定だったということだろうか。そうならば、私は彼に大切にされているのかもしれない。

本物の夫婦になろうと、私のことは好きじゃないとは思うけど努力をしてくれているのかもしれない。

「小野寺さんに後で会う予定なら謝っておいてほしいの。フラフラと歩いていた私のせいだから」
「…わかってる」

楓君の方に顔を向けた。
鋭い視線が私に向けられ、それが絡み合う。すぐに目を逸らそうとした瞬間、私の手首が拘束された。

小さな声が出たのと同時に私の体はソファに沈んでいた。
ギュッと目を閉じてゆっくりと瞼を開けると天井にぶら下がる照明と楓君の顔がある。
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