政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】

 脱いで姿勢を整え、松堂君の前に座り直すが、彼の手が一瞬止まった。
そしてここでようやく何故彼の手が止まったのか理解した。首元に見える真っ赤な跡に視線が注がれている。

 しかしそれは一瞬で、すぐににっこり笑って喉を見てから聴診器を胸に当てる。

「上からなのでそのままでいいですよ」

 看護師さんの言葉に頷き、聴診器で胸の音を確かめてもらう。

「熱もありますし、咳も出てますね。熱も微熱ではなく高熱ですし、脱水の症状も見られますので点滴打っていかれますか?30分くらいですが」
「…えっと…夫を待たせているので、」
「待っていてもらうことは可能ですか?薬ももちろん出しますが、これだけ高熱が出ると辛いでしょう」
「…分かりました」
「では、一旦待合室の方でお待ちくださいね」

 優しい看護師さんにそう言われふらつきながら待合室へ戻る。楓君はすぐに駆け寄って「大丈夫?」と訊く。

「薬は出してもらうから大丈夫だよ。でもごめんね、点滴することになって30分くらい待つことになるんだけど…」
「わかった。待ってるよ。早く治ればいいけど」
「風邪だからすぐ治るよ」

 そう言って笑ってみせても彼の顔色は曇っている。
今日一日ずっと同じ表情をしている。私の風邪よりも仕事はいいのだろうか。そっちの方が心配だ。
 電話も何度も掛かってくるようだから、電源を切っているのを先ほど見た。

「点滴ってどこで打つの?」
「わからない。今呼ばれるから」
「俺もついていこうか」
「いいよ!大丈夫だよ、ありがとう…」
「わかった。あと…―医者は幼馴染だった?」

 彼の目の色が変わったように思った。うん、と短く答えるとそっか、と少し素っ気ない返事になった。


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