政略結婚のはずですが、溺愛されています【完結】
「はぁ、…もう、どうしようかな…」

 帰宅してからも今日あったことで無意識に深いため息を吐いていた。
斎藤さんには私が楓君の妻だということを知られてしまったわけだ。彼女が言いふらさなければまだ仕事は出来そうだけど、その保証はない。

 だからと言って辞めるのも嫌だった。今回のようなことは一般の社会人はきっとあの程度は経験しているのかもしれない。だとすれば、今までずっと生温い環境にいたであろう自分が成長する機会は今しかないような気がする。

 楓君が帰宅してすぐに今日ホテルで起こった件について改めてお礼を言った。

「あれは当たり前のことだよ。それよりもあの従業員とは極力関わらないでほしい」
「え?斎藤さん?まぁ元々苦手だったからそんなに関わらないけど…どうして?」

二人で椅子に腰かけて目の前に並んでいる食事に手を付けず、彼は続けた。

「本人は認めていないけど今回の件はおそらく元々仕組まれていたんじゃないかと思ってる。確証はないからこれ以上は責められないけど」
「そうなの…」
「まぁ、清川はもう部署変わるから日和は気にしなくていい」
「…うん」
「それから仕事はもうやめたらいい。他にも仕事はある」
「それなんだけど、何とかして働けないかな。せっかく仕事も順調に覚えてきてるし…斎藤さん以外は別に問題はないの。楓君が夫だということが知られたのは…困るんだけど」
「日和がまだ働きたいっていうならいいけど…でも、そもそも働く必要はないんだから」
「うん。わかってる。だけど逃げるみたいで…もう少し働きたい」
「わかった」

 楓君は観念した様子でいただきます、と言って夕食を食べ始めた。
仕組まれていたなどということは信じたくはないが、だとすれば斎藤さん
にはあまり関わらないようにしよう。

今日は本当に彼に助けられた。私を信じてくれていたことが一番うれしい。

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