花吹雪~夜蝶恋愛録~
興味のないふりをしながらも、耳だけはそばだたせる。

でも、残念ながら、相手が何を言っているのかは聞き取れなかった。



「わかった。1時間くらいで戻る。……何? いや、それはあとで俺が処理するから気にするな」


まったくもって、話が見えない。

美咲が落胆しているうちに、豊原は電話を切ってしまった。



「悪いが、呼び出された。待ち合わせたコンビニまで送ればいいか?」

「ここでいいです。すぐそこに駅あるし、電車で帰れますから」

「すまないな」

「いえ。今日はごちそうさまでした。あと、変な話をしてすみませんでした」


頭を下げて、美咲は車を降りようとドアに手を掛けた。

が、「おい」と制される。


何かと思って再び顔を向けると、



「お前、そのまま変わらずにいろよ」


と、わけのわからないことを言われた。



そのまま変わらずに?

美咲は首をかしげながらも、「はい」と口先だけで返事をし、今度こそ車を降りた。


去っていく豊原の車を見つめる。


あの雪の日のことを誰かに話したのは初めてだったなと、今更思った。

別に、取り立てて隠していたとかではないが、それでも今は、少しすっきりした気持ちだった。



空を見上げると、そこには小さいけれど、いくつもの輝きがあった。


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