花吹雪~夜蝶恋愛録~
豊原は相変わらず、気が向いた時に来店してくれ、適当に酒を飲んで帰っていく。
『そのまま変わらずにいろよ』と言われたこと以外は、特に何か求められたということもない。
美咲はもう、豊原の人となりを探ることを諦めた。
別に、何も知らなくとも、今まで通りの関係が成り立っているし、それで困るようなこともないからだ。
そのまま日々は過ぎていく。
美咲の順位は、まだまだ低いが、最近ではわりと安定してきたように思う。
もう、お茶を引くようなこともない。
それなりに店にも認められ、順風満帆といった風。
しかし、そんな中にあって、それは突然の出来事だった。
その日、豊原は、ラスト間際に『Rondo』にやってきた。
そして、難しい顔をして少し酒を飲んでいたかと思うと、ふいにその手を止め、美咲の目を見て言ったのだ。
「ここに来るのは今日で最後になる」と。
美咲はわけもわからないまま、「え?」と声を漏らした。
いきなり、何を言われたのかわからなかった。
初めて指名をくれた人で、私にとっては恩人で、ただの客だとは思ってなかったのに。
「どうして……」
「別にお前が悪いわけじゃない。ただ、仕事でな」
「仕事って、転勤とかそういうことですか? それってもう二度と会えないってことですか?」
不安から美咲は詰め寄る。
豊原はどう言えばいいかというような顔で、
「仕方がないんだ」
と、だけ言った。