花吹雪~夜蝶恋愛録~
震えた声で問う美咲の言葉に、豊原は抑揚なく「あぁ」と返すだけ。


正直、サラリーマンではないだろうとは思っていたが、それでもヤクザだとは疑いもしなかった。

確かに顔はいかついが、だからって恐ろしい人だと思ったことはなかったから。



「冗談でしょ?」


それでも信じようとしない美咲に、豊原はポケットを探って、取り出したものをカウンターテーブルの上に置いた。

金色の、代紋入りのピンバッジ。



「背中も見たいと言うなら、今ここで服を脱いでやってもいいが」


刺青など、見たくもなかった。

美咲はかぶりを振りながらも、顔を伏せる。


豊原がヤクザだと知って、今までと同じように接する自信はない。

けど、でも。



「それで、どうしてもうお店にはこられないんですか?」


きてほしいのか、きてほしくないのか、自分でもわからなかった。

それでもその理由が知りたかったから。


豊原は美咲を一瞥すると、短くなった煙草を消し、自らで作ったカクテルを喉の奥に流し込むと、



「少し長い旅に出ることになってな」


と、自嘲気味に言った。



「少し前にあった抗争のケツを拭くための、サツとの取引でな。8年か、それ以上、ムショに入る」

「……そん、な……」

「上が決めたことには逆らえないし、逆らう気もない。俺がムショに入れば組を守れるんだ。まぁ、組としては、邪魔な俺を消したいだけなのかもしれないが」


組のため?

それで人生を棒に振ってもいいって?



「私にはわからない! 利用されてるってわかってて、どうして従う必要があるんですか!?」
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