愛を教えて欲しくない
入園してから季節がふたつ過ぎた頃、いつものようにトンネルに行くと、普段は誰もいないはずのそのトンネルに見知らぬ男の子が座っていた。
その子はこちらに気づくと、にへぇと微笑み、立ちすくんでいた私の手を引いて、自分の隣に座らせた。
「ぼ…おれね、けいしんっていうんだ!」
「…わたしは…まなって、いう」
「まなちゃん?」
予想打にもしていなかった突然の出来事にしどろもどろ答える私の名前を呼んだその声があまりに優しくて思わず、勢いよく顔をあげた私に驚いた男の子はふはっと吹きだした。
そのまま私の目を見て、私の手を取り、もう一度「まなちゃん」と小さく微笑んだ。
その笑顔に何故だか涙がでてきて、潤んだ瞳がバレないようにと顎が胸につきそうなほどにうなだれて、私の手を両方の手で包み込んでいる慧の暖かい小さな手をぎゅっと握り返した。