何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
タッタッタ
その時、遠くから近づく足音が聞こえた。

「死んだの!?」

彼女はなんのためらいもなくかずさに近づき、彼女に詰め寄った。

「…星羅…?」

悲痛に顔を歪めていた星羅を見た天音は、困惑の表情を見せた。
いつも冷静な彼女がこんなにも取り乱した姿は、天音が初めて目にしたものだった。

「死んだの?」

星羅は必死に、ただその言葉だけを繰り返した。

「死んでないわ…。」

かずさが宙を見つめたまま、ポツリとつぶやいた。

「え…。」
「天使教は生きてる…。」

かずさはもう一度、はっきりとそう言った。

「本当?よかった。」

かずさの言葉を素直に受け止めた天音は、星羅よりも先に安堵の表情を浮かべた。

ぺタ
その横で、星羅は下を向いてその場に座り込んだ。
まるで、全身の力が全て抜けてしまったかのように。

「…でもいずれは、こんな日が来るかもしれないわよ…。星羅。」
「…。」

星羅は下を向いたまま、うなだれているばかりで、何も答えようとはしない。
その表情は天音からは見えない。

「星羅…?大丈夫?」

天音は、明らかに普通ではない星羅の様子が心配で声をかける。

「よかったわね。生きてて。」

その横を何事もなかったかのように、かずさが通り過ぎた。

「かずさ…。」

天音には、星羅がなぜそこまで天使教の身を案じていたのか、分かっていなかった。
そう、まだその時は、事の重大さには気がついていなかった。

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