何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
妃候補達は、大広間の部屋に集められ、しばらくはそこで生活する事となった。
もちろんこの状態では、修行どころではない。落ち着くまで、授業はなくなった。

その晩。皆が寝静まった頃。
城へとちゃんと帰って来ていた天音は、一人窓の外の月を見上げていた。

「眠れないの?」

そんな天音に星羅がそっと話しかけた。

「…寝たくないの…。」
「どうして?」
「寝たら夢を見るから。」

(天音の目は、なぜこんなに濁ってしまったのだろう…。)

それは、辰だけでなく星羅にも明らかだった。
あの火事の時、一体彼女に何があったのか、それは星羅には分からない。

「もう夢を見たくない…。」

彼女のその言葉からは、なんの生気も感じられない。
彼女は、何もかも諦めたようだった。
妃になる事も、生きる事も…。

「…だから人は夢を忘れるのよ。」

星羅も天音と同じように、月を見上げた。

「寝ないと体に悪いわよ。」
「…。」

しかし、天音はこっちを見ない。月を見つめたまま。

「…おやすみ。」

星羅には、それ以上彼女にかける言葉が見つからなかった。
今は、何を言っても無駄。
それを分かっていたから。

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