何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
————月斗が死刑になる前の夜

カツカツカツ
カツ
その足音が月斗の牢屋の前で立ち止まった。

「オイ。起きろ。」
「…。」

月斗は背を向け寝ころんだまま。その声に反応はみせず、微動だにしない。
本当に眠ってしまっているのか。牢屋の前に立つ彼には定かではない。

「…お前を死なせるわけにはいかない。」
「…。」

しかし、彼の声が聞こえているのか、いないのか、月斗はうんともすんとも言わない。

「いいか。お前はあのバルコニーで打ち首にされる。バルコニーの左手に森がある。そこに大きな松の木があるから、自殺で落ちたふりをしてその木に飛び乗れ。」
「…。」
「俺もこの城を抜け出す時、その木を使ってた…。」

月斗は未だ動かないまま。

「いいか。死ぬなよ。」

そして、彼の足音がまた遠退いて行った。

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