何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「反乱軍は着実に城下町へと向かっています。」
「なぜだ!!」

イライラが日に日に増していく宰相が、その報告に声を荒げた。

「…彼らは巧みな戦略で我々を欺いております…。」

兵士の一人が恐る恐る答えた。
なぜなら、その言葉が火に油を注ぐ事は明らか。

「一体どうなっているんだ!あのぼっちゃんは家出するわ!この国は!」

反乱だけではなく、京司が居なくなった事によって、宰相の怒りは頂点に達していた。
今やこの城に、彼のその怒りを収める事ができる者は、誰もいない。

「お、落ち着いて下さい。宰相様。」

官吏が仕方なく、老中のなだめ役を買ってでた。
やはり誰がどう見ても、この役目は彼しかいない。

「預言者殿。一体我々はどうすれば…。」

この張り詰めた空気に耐えかねた官吏が、その様子を黙って見ていたかずさに、助け舟を求めた。

「…反乱軍はこの町には入れません。天師教がいる限り。」

宰相とは対照的に、かずさが落ち着いた声で答えた。

「しかし天師教様は…。」
「代わりがいればそれでいい。」

無表情でかずさがそう言った。

「…確かに。」

冷静さを少し取り戻した宰相も、その意見に同意を示した。
たとえ代わりでもいい。天使教がここにいると民衆に思わせておけばそれでいいのだ。

「しかし…。さっさと石を見つければよいのでしょう?預言者殿。石は!」

しかし、宰相のご機嫌取りにうんざりな官吏は、かずさに簡単に同意を示そうとしない。
なぜなら、石さえあれば全て丸く収まる。
この世も安定し、天使教の問題に頭を悩ませる事もない。
そして何より、宰相をなだめる事もしなくていいのだ。

「天音を連れ戻せばいいのだろう?」

その官吏の言葉に、宰相の鋭い視線がかずさへと向けられた。

「その必要はありません。」

しかし、かずさは未だ冷静に口を開くだけ。

「何?」



「…天音はこの町に戻って来ます。必ず。」




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