何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「ん?」
「どうした?りん?」

りんが、何かに反応したかのように、後ろを振り返った。
それは、シド達反乱軍が馬で移動中の事。

「今何か聞こえた気がしたんや。」

それは城下町への道のりの途中。
りんの耳には、聞き覚えのある何かが聞こえた気がした。

「鳥の声じゃないのか?」

しかし、それはシド達には聞こえてはなかったらしく、シドが辺りを見回しながらそう言った。
この辺りは、今の所町や建物はなく、見通しがいい。
もちろん敵の姿も見当たらない。

「…そーかもな。」

りんは少し腑に落ちなかったが、気にしない事にし、また馬の手綱を握った。

パカパカ

今日は久しぶりに暖かく、穏やかな日だった。
国の軍にも見つからず、何の障害もなくここまでやって来た。
そしてしばらく馬を走らせたその時。

「ん?」

りんがまた何かに反応し、小さく声を漏らした。

「また何か聞こえたか?」

シドが、りんをわざとからかうように笑いながら、そんな風に言ってみせた。

「シド!悪い!わいちょっと寄り道してくるわ!」

ヒヒーン
りんは突然そう言って手綱を強く引き、馬の方向を変えた。

「な!何言ってんだよ!」

りんの突拍子のない言動と行動に、さすがのシドも慌てふためいた声を出した。
また、いつ国の軍が攻めてくるかもわからないのに、単独行動とるなんてありえないと…。

「わい、神様に会いに行かんと!」

しかし、そんなシドの思惑とは裏腹に、りんはいつもの笑顔を浮かべ、一人だけ違う方向に馬を走らせた。

「りん!?」

シドは唖然とその様子を見つめる。
そして、りんは振り向く事なく、その背中はどんどん小さくなっていった。

「たく。何言ってんだよ…。
…ここに神なんていないんだよ…。」

シドはそう言って、りんの背中を仕方なく見送った。

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