何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】

「ただの見学者や！！なあ？」

そんな京司の代わりに、りんが助け舟を出してくれた。
やはり、彼が簡単に首を縦に振るわけはない。
それは、シドも何となく感じ取っていた。

「ああ…。」

そして、京司は小さく頷いた。

「…人を…殺すの…？」
「…。」

京司の後ろに、隠れるように立つ彼女が、小さくつぶやいた。
それは、シドに向けての言葉である事に、すぐに彼は気がついた。

「いや。俺たちは、国の軍からなんとか逃げながら、ここまで来た。誰も殺させない。もちろん城下町の人間もな。」
「…。」

その力強い声に、京司の後ろから姿を現した天音は、シドから目を離せなくなった。
彼の言葉は真っ直ぐで偽りはないのは、明らかだ。

「俺たちが狙うのは、天師教一人だ。」
「…。」

シドはやっぱり、真っ直ぐにその言葉を発した。
しかし、その言葉に京司は、目を伏せずにはいられなかった。
なぜなら、その張本人が目の前にいるのだから。

「できれば、その時には辰にもいて欲しい。」
「え…？」

天音がその名前に反応し、声をもらした。

「…なんでそんなに、辰にこだわるんや？」

その名前が出てきた事へ疑問を投げかけたのは、りんだった。
事あるごとに辰の名前を出すシドに、ここぞとばかりにりんは聞いてみたのだ。