何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「…戦いの痛みを知ってるからだ。」
「…。」

天音がその言葉に目を見張る。

『俺には、やらなきゃいけない事がある。』

そして、そんな彼の言葉を思い出した。

「この国の痛みを。」

シドがもう一度噛みしめるように、その言葉を吐いた。
そして、その言葉を聞いた京司は、顔を上げる事が出来ないでいた。

「だからきっと、あそこにいるんだよ。」

すると、今度は自分の番と言わんばかりに、天音が静かに言葉を紡いだ。

「辰は逃げてるんじゃない!今も痛みの中にいるんだよ。」

いつの間にか、その目は真っすぐシドを見ていた。

「辰は言ってた…!この国が好きだって!」

そして、天音はシドの前に立ち、必死に訴えた。
辰の思いを天音は、痛いほど知っていたから…。

「シド!!国の軍だ!」

その時、シドに向かって、反乱軍の仲間の誰かが叫んだ。
どうやら国の軍が、この場所を嗅ぎつけたらしい。

「今行く!!」

シドは一度仲間の方へと声をかけ、そして天音の方をもう一度見た。

「ありがとう。」

その言葉が天音に向けられたものだと、そこにいる誰もがわかった。

「…。」

それに答えるように、天音は真っすぐシドを見つめる。
もう何に怯える事も、隠れる事もせず。

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