何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「あとは前を向くだけだ。」

シドの瞳は真っすぐ前を見据えている。

「うん。」

天音もまた、力強い言葉で頷いて見せた。

「そうだ。まだ聞いてなかったな。君の名前は?」
「私は…。天音。」
「いい名前だ。」

そう言って、シドは馬に飛び乗った。

「よっしゃ!わいらも行で!」
「え…。」
「京司。後ろに乗れ。」

馬にまたがったりんは、京司に自分の後ろに乗る事を促す。
そして、京司は戸惑いながらも、りんの馬に飛び乗った。

「いくで!!」

そう言ってりんは馬を走らせ、その姿はみるみるうちに小さくなっていく。

「…。」

天音はその様子を、ただ黙って見ている事しか出来なかった。

「女は辛いわね。」

すると、一人の女性が天音に声をかけてきた。
(この人も反乱軍の人なんだろうか…?)

「待つ事しかできない。でも、男はもっとつらい。」
「…痛みは同じ。」

気づくと天音の口から、自然とその言葉が落ちていた。

「ええ。私達は私達の国にしたいの。」

女性は真っすぐと前を見ていた。シド達が駆けて行った方向へ。

「天師教の国じゃなくて。」

いつの間にか、天音も同じ方向を見ていた。
そして、彼女の言葉に黙って耳を傾ける。


「みんなで生きていくの。」


『私達は一人じゃないわ。一人一人みんなで支え合うの。誰か一人の肩に寄りかかるんじゃなくて。』



——————それは、いつか聞いた母の言葉。




「分かってる。お母さんも、そんな国にしたかったんだよね…。」

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