何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「どうした?」

京司は、戦いで疲れた馬を労うシドの元に、一人足を運んでいた。

「俺はもう行かなきゃならない。」

京司が真剣な眼差しで口を開いた。

「え…。」

シドは京司のその言葉に目を見張る。
その決断はあまりにも早すぎた。
まさかこんなにすぐその日が来るなんて、シドも全く予想はしていなかった。
もう少しだけ、彼がここにいてくれるんじゃないか…。
そんなシドの淡い期待は打ち砕かれた。

「天音の事、頼むよ。」
「…。」

シドの真っ直ぐな瞳は、京司を見つめ固まったまま。

「天音はきっとお前達と同じだ。」
「お前は…?」

シドはどこか寂しげに揺れる瞳に問う。

「お前も同じじゃないのか?」
「…わかったんだ。俺には俺にしかできない事がある。」

そう言って、京司が少し寂しげに笑って見せた。
京司は気がついてしまった。

「始めから違ったんだ…。」
「…。」

そこでぷつりと会話は途切れた。
シドにはわかっていた。もう、何を言っても無駄なのだと。
彼のその決意をくつがえす事はできないと。
彼の背負うものは、一体何なのか。
それはシドには分からない。
しかし…

「何も言わなくていいのか…。」


(それは、彼女を置いて行かなければならないほど、重い荷物なのか?)



「最後まで、ウソはつき通さなきゃ意味ないんだよ!」



そう言って京司は、自分の乗って来た馬に飛び乗った。


そして駆けて行く。


誰もいない、真っ暗なその道を。




「芯の通った奴だな…。」




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