何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「この国は天師教がいる限り安泰かー。簡単にはいかんなー!」
りんはまるで猫のように、大きく伸びをした。
そんな、りんが見上げた空は雲ひとつない快晴。
「天音は?」
辰がそこでやっと口を開いた。
「あの様子じゃな…。」
その質問が来るのはわかっていたが、りんは明らかに顔を曇らせた。
「え?」
辰はりんの答えに思わず声を漏らし、彼の顔は怪訝な表情に変わった。
そう、辰は天音がこの町を出てからは、一度も会っていなかった。
彼は天音の身に起こった事は、何も知らない。
「…天音なあ、村に帰れんかったんや。村はどこにもなかった。」
「…。」
それを聞いた辰は、取り乱す事はなく、何かを考え込むように黙りこくった。
「それは、今のあの子には辛すぎる現実やった。」
りんは、その寂し気な瞳を、また空へ向けた。
「…私は天音がこの国のために、立ち上がると信じている。」
辰はそれでも、諦めようとはしていなかった。どうしても、彼女に望まずにはいられない。
「…ジャンヌのようにか?」
りんは眉をひそめたまま、辰の方を見た。
「…。」
「そのジャンヌは殺されたんやで?」
りんが声のトーンをわざと下げた。
———同じ運命を天音にも味わせると?
「天音は…。」
辰は躊躇しながらも、さらに続けた。
「——————天師教と敵対する事になる。」
その残酷な未来を、まるで予言するかのように…。
「…天音は、もうアカン…。」
その意味を痛いほど理解していたりんは、力なくつぶやいた。
しかし、願わずにはいられない。そんな未来が来ない事を…。