何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「僕は君の泣いている声も聞こえるよ。君が僕の声に気づいてくれたように。」
「っせ…い……。」

その懐かしい顔を見て安堵した天音の目からは、自然と涙がこぼれ落ちた。
彼と顔を合わせたのは一体どれぐらいぶりなのか、もう思い出せない。
そんな彼の顔を見た途端、天音は今まで我慢していたものが溢れ出てきた。

「た…すけて…。」

そして、すがるような声をふりしぼった。
もう、分からなかった…。どうしたらいいのか…。
だから、誰かにすがりたかった…。

「信じれない?」

青はまだ扉の前に立ちつくしていた。
そのため、二人の間には、距離がある。

「みんなが…じいちゃんが…もういない…。」

天音はその場から動けないまま、とぎれとぎれに声を出した。

「目に見えないものは信じれない?」
「え…。」

天音はその言葉に、思わず顔を上げた。

「信じるものは、目に見えるものだけじゃないよ。」

そこには今までとは違う、凛々しい青の顔があった。
あの部屋の中に閉じこもっていた弱々しい彼の姿は、ここにはない。

「ごめん。もう行かなきゃ。」

青はそう言って、少し寂しそうに笑った。

そう、それは合図。

—————もう、タイムリミット。

「待って…。」

天音は何とか彼を引き留めようと、潤んだ目で青を見つめた。

「もう一度会いたいなら、動きなよ。」

しかし、青は簡単に手を差し出す事はしなかった。
そう、彼は知っていた。それが彼女を救う事にはならない事を。

「せ…い…。」


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