何の取り柄もない田舎の村娘に、その国の神と呼ばれる男は1秒で恋に落ちる【後編】
「はぁはぁ。」
星羅は知らずのうちに、駆け出していた。
(この感じ前にもあった。)
彼女は予期していた…。
昨夜星を見上げた時に、今日何かが起こる事を感じていた。
それは彼女の使教徒としての能力。
星羅がめったに使わない能力。
「どこへ行くの?」
そこに現れたかずさが、星羅の行く手を阻むように、彼女の前に立ちふさがった。
この先には、行っては行けないと言わんばかりに。
「はぁ、はぁ、」
星羅は息を切らしていて、言葉を上手く吐く事ができない。
そんなにも無我夢中な彼女の姿を、誰が見た事があるのだろう。
「もう、いいの?」
かずさがいつにも増して、低い声を出した。
その時、星羅には、遠くの方に見える人だかりが見えた。
「きょ!んぐ!」
かずさの右手が突然、星羅の口を塞いだ。
「その名を呼ぶの?」
かずさのその手は、氷のように冷たい。
「んー!なして!」
星羅はその手を力ずくで、振り払った。
「何があったの…。」
星羅は、一旦呼吸を落ち着かせて、今度は取り乱さぬように自分を抑え、震える声でかずさに尋ねた。
「…もし、あなたが妃になれたとして、天師教に会ったその後は?」
しかし、かずさは、星羅の問いには簡単には答えるつもりはないようだ。
そして、かずさの冷酷な視線が、尚も星羅に突き刺さる。
「…。」
「すぐにわかるわよ…。」
そう言ってかずさは、星羅に背を向けた。
(わかっている…。私がこの先に足を踏み入れる事はできない。それをしてしまったら、全て終わる。せっかくここまで来たのに…。)
「京司……。」
星羅は、その場を引き返し、小さくその名を呼ぶ事しかできなった。