私、あなたの何なのでしょう? 10年目の再会は愛の罠


すぐに席に戻ってきたが、菜々美の表情は冴えなかった。

「ゴメンね、急に。風邪でも引いちゃったかな…。」

席に座ると、二人に謝った。

「それはタイヘンですねえ。早くお休みになった方がいいですよ。」

聞き覚えのある声が菜々美たちの頭上から降ってきた。鳴尾要の声だ。

「ここで、良くお会いしますね。」
「この店、何でも旨いから気に入ってるんですよ。」

今日はトレンチコート姿で、これもサマになっている。

「あなた、結構おヒマなんですねえ。」

「あ、鳴尾さん。良かったらこちらにどうぞ。
 牡蠣の炊き込み、旨いですよ。召し上がって下さい。」

菜々美と要の会話に中塚が割り込んだ。

中塚は要を誘いながら立ち上がると、菜々美の腕を引っ張った。

「俺、菜々美を送って行きますから。」 
「はあ?」

「そうですね、鳴尾様、どうぞどうぞ。」

延原までも、要を引き留めている。

「菜々美さん。お伝えしたい事があります。後でメッセージ送りますね。」
延原は意味深に菜々美を見ていた。

「は、はい。」

菜々美は腕を掴まれたまま、中塚に引っ張られるようにしてタクシーに乗り込んだ。

「ゴメンね。誘った私がダウンして。」

「気にするな。あ、運転手さん。そこのドラッグストアでチョッと止まって。」
「何?」
「お前、まだ薬とかスポーツドリンクとか買ってないだろ。待ってろ。」

良く気がつく男だ。だから上司にも可愛がられているんだろう。

「…さすがだね、ありがとう。」


だが、中塚が買ったのはそれだけではない。妊娠検査薬もだった。



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