激甘御曹司は孤独な彼女を独占愛で満たす

運転席に乗り込んだ彼がそういう。

「首筋に噛みつきたくなるような、俺を誘う匂い。香水か?」
「そうです。練り香水。自分で作ったんです。あ、ちゃんと自分で購入した香料ですから。会社のものを横領とかしてないです」
「ああ。わかってる」
「……。そういう貴方も、セクシーな香りがする。でも知らない匂い」
 彼のラストノートの香りさえ知っている私が、今日の彼の匂いが僅かに違うことに気づいた。
「香水について自分もちょっと勉強して、見よう見まねで練り香水を作ってみたんだ。それで再会できたんだから披露したいし」
「……宇柳さんって、気障ったらしいですね」
「ああ。まあ本気だからだろうな。――美優」

車内という空間で、名を呼ばれた。ただそれだけなのに、私の心臓はうるさい。
とめてもとめても、何個も掛けていたアラームのスムーズみたい、と思考がまともに反応しなくなった。

「でも私は忘れたい。もう恋愛なんてこりごりだし」
「じゃあ都合よく寂しさを埋めてくれた俺は、打ってつけじゃないか。恋愛したくないなら、俺と結婚すればいい」
「――なんで」
「結婚してから惚れさせるから」

信号で車が止まると、彼は私の顔を刺すようにまっすぐに見つめてきた。

「どうしたら、今度は去られないかって今、色々考えてるとこ」
「……なんか、言いなれてそうですね」
駆け引きの言葉みたいに、簡単に出てきたその甘い言葉を疑う。

「これだけ必死なのに、全然俺の気持ち見えないな」
「だって、そんな言葉、……言われたことないし」
嘘くさいし、とは言えずそう誤魔化す。すると彼が私の髪に触れた。
「今度は忘れさせない。――今日からずっと美優の頭の中に俺がいればいい」
そんな、砂糖みたいな甘い言葉を吐く。
女はそんなに簡単に、騙されない。私だって簡単に騙されはしない。
既に騙されて、意固地になってる私がいる。傷つきたくないから、殻にこもっている私がここにいる。
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