一夜では終われない~ホテル王は愛しい君を娶りたい~
 妄想でしかない万が一の未来に怯えるくらいなら、過去の私が選択したように彼との〝今〟を抱き締めて生きるべきだったのだ。

「うるさい! 恭介に近付くな!」

 唾を飛ばしながら絶叫され、咄嗟に彼女の足を蹴る。

「うっ……!」

 呻いた女性が地面に倒れ込んだのを見てすぐ距離を空けたが、これは失敗だった。取り落とした包丁を奪えば、刺される可能性を排除できたというのに。

「あああああっ!」

 怒り狂った女性が私を睨みつけ、包丁を逆手で握って駆け寄る。

 その勢いに呑まれて足が動かず、だめかもしれないと他人事のように頭が冷えた。

 走馬灯が駆け巡る中、よぎるのは深冬の顔ばかり。

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