エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
純平さんは、桃子の名刺も、下心とは思いもせず、真っ先に仕事に結びつけた。
多分、私があの時の男の人のことを彼女に話したと言ったら、私の前で、すぐに電話をかけただろう。


私のことも……彼が指揮官を務める事件に巻き込まれたりしなければ、まったく無関心だったはずだ。
いや、今だって、私自身にはなんの興味もない。
私が無自覚のうちに、彼の性癖とやらを刺激してしまっただけ。
私にキスするのも抱くのも、性欲を満たすためで、それ以上の意味はない……。


「……はあ」


がっくりとこうべを垂れて、溜め息をついた。


「歩?」


桃子は私がなにを思い耽っているかわからず、少し声を低くして探ってくる。


「私が恋に不慣れじゃなかったら、少しは上手く立ち回れるのかなあ……」

「え?」


独り言を拾われて、わずかに逡巡してから、結局黙ってかぶりを振った。
純平さんは、今の私を『可愛い』と言ってくれたんだから、背伸びせずにこのままでいればいい。
そばにいられるうちに、好きになってもらえるように頑張る。
今やるべきことは、それだけだ。


「……よし」


私は握り拳を作って大きく頷き、自分を叱咤激励した。


「桃子、仕事戻ろう」

「え? うん……」


私は彼女を促してお手洗いを出て、オフィスに向かって歩き出した。
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