エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「今日は、車じゃないんですか?」


地下の駐車場には降りず、駅まで並んで歩き出すと、きょとんとした顔で俺を見上げてきた。


「コンビニにも行くんだろ? だったら、かえって不便だ」


俺は、目線だけ彼女に下げる。


「いろいろ歩き回った方が、お前の仕事にも役立つだろ」

「! そうですね。ありがとうございます!」


歩はパッと目を輝かせて、嬉しそうに礼を言った。
……やはり、人を疑うことを知らない。
なんの疑問も持たずに、〝自分のため〟と納得していた。


相変わらずの純粋さに半分呆れ、逆に俺は気を引き締めて辺りに視線を走らせた。
駅に近付き、人通りも増えてきた。
どこかに、例の男が姿を現していないか、確認する。


外出に電車を使うのは、もちろん彼女の仕事のためではない。
囮とは言わないまでも、歩に外を歩かせ、相手が再び動き出すのを狙ってのことだ。


俺が自宅で歩を保護していることを、簡単に突き止められるとは思わないが、あの男が売買組織に関わる人間であれば、十分可能だ。
今日一日、歩を連れ歩きながら、俺は警察の嗅覚を研ぎ澄ませる……。
休暇とは言ったが、これも売買組織の早期摘発のため。ほぼ仕事だ。
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