エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「そりゃ、純平さんは、今日のデートも渋々でしょうけど、私はすごく楽しみにしていて」


歩が、自嘲気味に言葉を切る。
道端で、距離を空けて突っ立って話す俺たちは、なにか険悪な空気漂わせていたようだ。
道行く人が、チラチラと好奇の視線を向けていく。


「おい」


俺は、大股で彼女の前に戻った。


「わかった。わかったから、行くぞ」


宥めながら彼女の腕を取り、歩みを促そうとしたが、サッと手を引っ込められ、空振りに終わる。


「おい、どうし……」

「ついでだから言っちゃうと、その呼び方も不満なんです」


わざわざ両手を背中に回し、言葉通り不満気に頬を膨らませる彼女に、俺は眉根を寄せて警戒した。


「『おい』とか『お前』とか。私には、妻なんだから名前で呼べって言ったくせに」

「え?」


予想の斜め上をいく切り返しに、鳩が豆鉄砲を食ったような気分で聞き返すと、


「純平さんは、エッチなことする時しか、私のこと名前で呼んでくれない……っ」


歩はギュッと目を瞑って、半分やけっぱちのように言って退けた。
一応人の耳を憚ってか、声量は抑えられていたものの、すぐそばを通り過ぎていった人たちが、俺たちをわざわざ振り返って二度見していく。


「お前……こんなところで、なんてことを」
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