エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
しかし、指に力を込めて、俺の手をギュッと握りしめる仕草からも、彼女の喜びが伝わってくる。
何故か俺まで、こっ恥ずかしくなってきた。


「別に……呼び方なんか、なんだっていいだろうが」


なんとなく彼女から目線を外して、つっけんどんに言った。


「夫婦を装うからには、お前の『瀬名さん』は、不自然だっただけだ。俺とお前ふたりしかいない家で『おい』と言えば、自分が呼ばれてるということくらい、わかるだろ」


そう。呼び方など、特段意識したことはない。
だが、彼女に言われて初めて気付いた。
無意識に名を口にするほど、俺は彼女を抱く時夢中になっている、そういうことだ。


「っ……」


自分でも認めざるを得ない事実に、らしくもなく動揺した。
と同時に、横から俺の顔をジッと見つめる彼女の視線を感じ、居心地悪くて顔を背ける。


「純平さんが呼んでるのは私って、それくらいわかりますけど」


歩が、そう返してきた。


「ちゃんと名前で呼んでもらえると、アイデンティティが満たされるというか」


まるで、自分に確認するような口調で続ける。


「……そんな言い回し、聞いたこともないな。アイデンティティは自分で確立するもので、他人に満たしてもらうものではない」
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