エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「おい、前見ろ」


俺の注意も一瞬遅く、女性の方とドンと肩がぶつかって、やっと顔を上げた。


「いった~いっ」


女性が、わざとらしく甘ったるい声をあげる。


「す、すみません」


歩が慌てて謝った。


「ちょっと~。混んでるんだから、よそ見しないでよね」


――感じの悪い女だ。
歩の前方不注意は間違いないが、それは女性の方にも言えること。


「ごめんなさ……」

「連れが失礼いたしました。お怪我はありませんか」


歩が首を縮めて謝罪を繰り返すのを、肩を抱き寄せながら阻んだ。
一歩足を踏み出し、歩と女性の間に割って入る格好になる。


「えっ……」


女性と一緒に、その連れの男性も、俺を見上げた。


「デカッ……」

「嘘、超イケメン……」


ふたりの反応に構わず、顎を引いて彼らを見下ろす。


「大丈夫のようですね。仰る通り混んでますから、気をつけましょう。……お互いに」


ねっとりと皮肉を交え、わずかに口角を上げて微笑み、


「行こう」


彼女の肩を抱いたまま、歩くよう促した。


「は、はい……」


歩は、ただでさえ小柄な身体を、さらに小さく縮こめていたけれど。


「私のせいで、すみません……」


真っ赤な顔で、声を消え入らせた。
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