エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「まったくだ」


俺は、ハッと浅い息で返す。


「水族館くらい、来たことあるだろう。浮かれすぎだ」


咎める目線を向けると、彼女は「だって」と眉をハの字に下げて口答えした。


「デート、初めてだから……」


バチッと目が合うと、俺から逃げるように、そそくさと顔を背ける。


「とにかく」


俺は、ガシガシと頭を掻いた。


「全部制覇は無理だ。今日観られなかった分は、次に来た時にしろ」


そう言いながら、彼女から腕を離す。


「行くぞ。……って」


またしても立ち止まる彼女に、眉根を寄せる。


「今度は、なんだ」

「あ。ごめんなさい」


歩は目を横に流して、ポリッとこめかみを掻いた。


「次、も、あるのかなあ~……って」


聞き取りにくい小さな声で、ボソッと呟く。


「東京で暮らすんだろ。今度は、朝から晩まで付き合ってくれる男に、連れてきてもらえ」


溜め息混じりに答える俺に、彼女はパチパチと瞬きをした。


「……おい?」

「い、いえっ!」


一瞬下がりかけた肩に力を入れて、シャキッと背筋を伸ばす。


「……はい」


目を伏せ、再び隣に並ぶ彼女を一瞥して、


「最初は、どこだ?」


俺は館内に向かって歩き出した。
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