エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
寂しくやるせない気分になって、唇を噛んだ。
今日一日のことを思い返すだけで、胸がきゅんとする。


浮かれすぎて、人とぶつかってしまった時、スマートに庇ってくれた。
私に声をかけてきた男性たちのことは、きっと、例の事件に関係する人だと思ったのだろう。
男性の腕を捩じ上げた冷酷な顔はちょっと怖かったけど……走ってきて、守ろうとしてくれた。
今まで知らずにいた恋のときめきで胸が高鳴り、一緒にいられるだけで嬉しかった。
……なのに。


『今度は、朝から晩まで付き合ってくれる男に、連れてきてもらえ』


さらりと言われた瞬間、胸にグサッと刺さった言葉が、改めてズンと圧しかかる。
偽装花嫁になって一緒に過ごして、ちょうどひと月。
その短い間で、私は純平さんに恋をしてしまったけど、彼の方はこれっぽっちも私のこと好きじゃないのかな。


こうしてそばにいられるのは、ほんの束の間。
来月、いや、もしかしたら来週にも、この偽装結婚は終わるかもしれない。
そうなったら、純平さんとの縁も途絶えてしまう――。
考えただけで胸がきゅうっと締めつけられ、ズキッとした痛みをもたらす。


「っ……」


とっさに胸元を手で押さえた時、ふと、純平さんがこちらに顔を向けた。
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