エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
彼はゴホゴホと咳き込む私から顔を背け、スッと手を離した。


「だろうな」


興味なさそうに言って、サッと立ち上がってしまう。


「あ……」


まるで聳える壁のような彼を、私は喉を仰け反らせて見上げた。
顎を引いて私を見下ろしている彼と、再び目が合う。


鼻筋が通っていて、男らしい薄い唇。
芸能人顔負けの小さな顔に、個々のパーツが絶妙なバランスで配置されている。
こんな状況じゃなきゃ、二度見して見惚れてしまいそうな、綺麗な顔立ちだ。
彼は私の不躾な視線を気にせず、新海さんを顧みた。


「お前、この女のどこが常習者に見える?」


底冷えしそうな声で問われた新海さんが、「はっ」と背筋を伸ばす。


「大島は一見客とは取引しませんから、この女も……」

「こんな見るからに隙だらけの女が、東京駅なんて人の多い場所で、堂々と取引するわけがないだろう」


彼はこれ見よがしな浅い息を吐いて、素っ気なく一蹴する。


「で、ですが。実際に大島からSを受け取り、所持の現行犯でもあります」

「だったら、鑑定を急げ。どうせ陰性だ。確認して、さっさと釈放しろ。誤認逮捕で一般人を長いこと拘束したりされたら、指揮官である俺の顔に傷がつく」

「はっ……」


深海さんが恐縮しきって、短い返事をすると同時に、


「準備、整いました!」


制服警官が固く強張った声を挟んだ。
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