エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「ほら」

「ひゃっ……」


半ば強引に引っ張り上げられて地面を踏むと、自然と足に力が戻ってきた。


「部下が、すまなかった」


素っ気なく抑揚のない謝罪に、言葉通りの謝意は感じられない。
自分で指揮官と言っていた。
この人が登場した途端、新海さんの態度が変わったところを見ても、とても偉い人なのだろう。


彼は私の返事を待たず、颯爽と身を翻す。
私をその場に残し、部屋から出て行こうとするのを見て……。
私は反射的に手を伸ばし、高級そうな黒いスーツの上着の裾を掴んだ。


「え?」


彼が肩越しに、私の手元を見下ろしてくる。


「あ、あの。ありがとうございました……」


呆けたままお礼を告げて、やっと、助かったという実感が込み上げてきた。
心の底から安堵すると同時に、意思とは関係のない震えが湧いてくる。


「本当に、本当にありがとうござ……」


感極まって声を詰まらせる私に、彼は何度も瞬きをした。
私の手を掴んで解かせ、まっすぐ向き直ってくれる。


「お前のためじゃない。先ほども言ったが、ただの一般人を誤認逮捕されては、逃げられるよりも赤っ恥を掻く。それだけだ」


淡々とした返事は、相変わらず芯が通った冷たさだけど。


「それでも、助けてくれました。あなたは私の命の恩人です」


そんな言葉で、自分を奮い立たせる。
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