エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「それなら尚更、指揮官の俺がのうのうと帰宅するわけにはいかない」


口元から手を離し、喉に引っかかって掠れる声を挟んだ。
朝峰は、『やれやれ』といった顔つきで、ひょいと肩を動かす。


「作倉を逮捕したら、瀬名さんが彼女を保護する必要はなくなる。もう、いいように愛玩できない。それほど時間はないですよ」


刑事らしい鋭い目で正論を説かれ、俺は不覚にも返事に窮した。
朝峰は、鬼の首を取ったような顔をして、ふっと笑う。


「指揮なら、ここじゃなくても執れるでしょう。俺の功績に免じて、菅野さんに謝って、そばにいてあげてください」

「っ……」


部下に言い負かされたことなど、今まで一度もない。
しかし、彼の一語一句に引き摺り出された、俺の歩への罪悪感が、目の前に積まれていく。


「では、瀬名さん。お疲れ様でした」


朝峰は、くるっと踵を返した。
そのまま、大股でスタスタと出口に歩いていく。


「……夜中でも、逐一報告しろ」


彼の背中にそう告げるのが、精一杯だった。
身体の脇で、ギュッと拳を握る。


出口まで行って立ち止まった朝峰は、


「もちろん、必ず」


それだけ言って、会議室から出ていった。
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