エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「おい、お前……」


純平さんは、訝しげに呼びかけながら、肘を引く手に力を込める。


「っ、放してっ……」


私は肩から腕を振って、彼の手を払った。
頭上で小さく息をのむ気配がして、ハッとして顔を上げた。
私の行動は意外だったのか、純平さんが驚いたように目を瞠っている。


「お、お休みなさい」


私は、取ってつけたように言って、乱暴な行動の言い訳にした。
彼の顔を、直視できない。
気まずくて、肩を縮めてそそくさと通り過ぎ――。


「っ、ちょっと待て」


純平さんが、やや声を険しくして、私の肩を掴んだ。
力任せに引っ張られ、私は抗う余裕もなく振り向いた。


意に反して、真正面からバチッと目が合う。
反射的に顔を背けようとしたものの、それより一瞬早く、強引に顎を掴まれ……。
色濃く降ってくる、彼の影。


「っ……ダメっ……!」


私は必死に顎を引いて、彼の唇から逃げた。
鼻先を掠めただけで、未遂に終わったキス。
なのに、私の心臓は激しく拍動する。


早鐘のような鼓動が苦しい。怖い。
逃げ出したいのに、私はまるで縋るように、両手で彼の胸元のシャツを握りしめた。


「おい……?」


頭上から降ってくる声は、怪訝より困惑に傾いている。
< 190 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop