エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「もう……こういうこと、やめませんか」


私は大きく俯き、純平さんの黒いソックスの爪先を見つめて、声を搾り出した。


「こういうこと……?」


彼の声に、微かな強張りが感じられる。


「偽装結婚を、真実に近付けるために、してること……」


私は、喉に声をつっかえながら、たどたどしい返事をした。
一瞬、純平さんがピクッと反応したのが、伝わってくる。
それでも、怯んではいられない。


「私は、純平さんにとってただの偽装花嫁、ペット。わかってるから、苦しいんです。辛い……」


自分で発した言葉に感情が煽られ、心のままに吐露した想いで、声が詰まる。
込み上げてきた嗚咽で、ひくっと喉を鳴らした。


純平さんは、黙っている。
今、なにを考えているのか知りたいのに、絶望するのが怖くて、顔を上げられずにいると。


「そうだな。もう、やめよう」

「え……?」


私は、彼にどんな言葉を期待していたのだろう。
優しい慰めでも、意地悪な蔑みでもないのは確かだったけれど、予想の斜め上をいく静かな反応に当惑して、恐る恐る顔を上げた。


純平さんは、顎を引いて私を見下ろしていた。
感情の読めない黒い瞳を見つけて、心臓がドクッと不穏に沸き立つ。


「じゅん……」

「お前が昨夜朝峰に協力したおかげで、今、作倉の令状取得手続きを進めている」

「えっ?」
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