エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
目を瞠る私の手を、彼はゆっくり掴んで自分から離させた。


「遅くとも明日の午前中には、逮捕できる。もう、俺がお前を保護する必要はない」


純平さんが手を放し、私の両手は力なくだらんと落ちた。
呆然と見上げた私と目が合い、ほんのわずかに眉尻を下げる。


「辛い思いをさせて、悪かった。いつでも好きな時に、ここから出ていってくれていい」

「っ、純平さ……」


とっさに呼びかけた私の声は、彼の上着のポケットで鳴った、スマホの着信音に阻まれた。
純平さんは、条件反射で口を噤む私から身体を背け、スマホを取り出す。


「瀬名だ」


キビキビと応じながら、私をその場に残し、ダイニングの方へ歩いていく。


「……そうか。わかった。現場に急行しろ。作倉を拘束し、連行するんだ」


無意識に目で追う私に背を向け、冷淡に指示をする。


「俺も、すぐに警視庁に戻る」


そう言いながら、左手首の腕時計に目を落とす。
戻れる時間を逆算しているんだろう。
その冷然とした横顔には、なんの感情も見出せない。
彼の神経は完全に仕事に占められ、もう、私の気配を意識すらしていない。


「ああ。頼んだ」


部下からの報告に、わずかなやり取りだけで電話を切り――。
抑えられない涙をぽろぽろ零す私を一瞥もせず、大股でリビングを横切って、家から出ていってしまった。
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