エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
廊下に残された私は、桃子とぎこちなく顔を見合わせ……。


「……〝歩〟?」


彼女が、顎を引いて猫を見下ろし、呼びかける。


「にゃー」


やっぱり、鳴き声を返すのを確認して――。


「……なるほどねえ」


納得した様子で、にんまりと笑う。


「あ、いや。ええと……」


彼女より早くお見通しの様子だった朝峰さんと、タッグを組んでからかわれたりしたら、純平さんの逆鱗に触れる。
私は落ち着きなく目を彷徨わせた。
桃子は背を屈めて猫を床に戻し、再びゆっくり背筋を伸ばす。


「ちゃんと愛されてたじゃない。よかったね、歩!」


勢いよくバシッと背を叩かれて、「うっ」と呻いて前につんのめる私の足元で、猫はゴロゴロと喉を鳴らしている。
その様子は、〝歩〟と連呼されて飽きてしまったようでもあり……。


「……ふふっ」


どこまでもマイペースな猫に和まされ、私たちは目を合わせて笑い声を漏らした。
その時。


「おい。ふたりとも、早く来い」


純平さんがリビングから顔を覗かせ、桃子が「はいっ」と姿勢を正す。


「お邪魔しま~す」


小走りで廊下を進み、彼にひょいと頭を下げてから、リビングに入っていく。
純平さんは、その背中を目で追ってから、私に無言で顔を向けた。
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