エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「しゃ、喋って、ないですよ?」


じっとりと咎めるような視線に、冷や汗を掻きそうになって、肩に力を込める。
飼い主ふたりの微妙な空気を感じたのか、猫は『我関せず』といった体で、しなやかにトコトコ歩き出した。
純平さんの横を過ぎて室内に戻っていくのとほとんど同時に、朝峰さんが「瀬名さ~ん」と呼ぶ声がする。


「ほんと、歩ちゃんの料理、すごい美味しそうですよ~」

「歩~。早く早く!」

「にゃーお」


完全回答を導き出したふたりの冷やかしに、ちょっと面倒臭そうながら、律儀に鳴いて応える猫――。


「……ったく」


純平さんが、大きな手で顔を覆って、がっくりとこうべを垂れた。
私たちを呼ぶ声と猫の鳴き声は、まだまだ続き……。


「へ、へへっ」


私は声を裏返らせて、ぎこちなく笑った。
純平さんは、顔から手を離し、低い天井を仰ぐ。
声に出して深い溜め息をつき、諦め、開き直ったように眉尻を下げ、


「俺たちが行かないと、パーティーも始まらない。早く来い、歩」


『やれやれ』といった表情を浮かべて、私に手を差し伸べてくれた。
婚前同居を経て、入籍して本物の夫婦になったのに、彼は滅多に私を名前で呼ばない。
おかげで、私にはまだ免疫がなく、呼ばれる時はもれなくきゅんとしてしまう。
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