エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「あっ……!」


瀬名さんは魔術のように華麗に、私の両手首を一纏めに掴み上げ、頭の上に縫い留める。
綺麗なラインの顎を傾け、ジタバタと焦る私に見せつけるみたいに、ゆっくりゆっくり近付いてきた。
薄く細められた目元の妖しさに、ゾクッとした。


「ま、待っ……」


獰猛な光を隠さない、黒い瞳に射貫かれ――。
唇を塞がれたと理解が追いつく前に、唇の隙間をこじ開けられ、なにかがぬるりと侵入してきた。
生々しい感触に、思考回路がショートする。


「あ、ふっ……んっ」


口の中を縦横無尽に蠢くそれに、喉の奥まで引っ込んでいた舌を搦め捕られた。
くちゅくちゅといやらしい音が、体内から直接鼓膜を振動させる。
感じたことのない痺れが背筋を駆け抜け、脳天まで届いた時、私の身体がカタカタと震え出した。


「た、ただの偽装結婚、なのに……」


心の片隅に残った微かな抗いが、私にそう言わせるけど、深く熱いキスにのみ込まれる。
強引に押し入ってくる瀬名さんは、さっきまでの冷たく怜悧な態度からは想像すらできないほどの欲情を湛えている。
それが私に向けられていると実感して、頭の中で脳神経が焼き切れた。


「ふう……ん……」


目蓋がとろんと重くて、目を開けていられない……。
ボーッとしながら目を閉じた、その時。
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