エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
***


――身体が、重い。
下腹部が根源の鈍い痛みが、全身を蝕んでいるようだ。


「ん……お腹いた……」


ぼんやりと呟いた声を、自分の耳で拾う。
それをきっかけにして、意識を覆っていた靄が晴れ始めた。


「あったか……」


痛みを紛らわせようと、布団の温かさに集中する。


「もっと、もっと……」


温もりを求めて、譫言を繰り返していると。


「……ん?」


なにかが、胸の上を這う感触に気付いた。
捕まえようとして、無意識にそこに手を重ねる。
すると。


「ひゃっ!?」


むにっと胸を掴まれ、私はギョッとして勢いよく目を開けた。


「起きたか」


すぐ額の先から、ちょっと掠れた低い声がして、条件反射でビクッと身を竦める。
起き抜けで、目の焦点が定まらない。
パチパチと瞬きをして、ようやくクリアになった視界に飛び込んできたのは――。


「せ、瀬名さんっ……!」


寝乱れた髪の、見慣れない瀬名さんに、ひっくり返った声をあげた。


「なっ……どっ」

「偽装とは言え、俺と〝結婚〟したんだろ。妻が夫を名字で呼ぶか?」


彼の方も寝起きだからか、気怠げでお色気ムンムン。
なのに。


「マンションの住人と鉢合わせしてボロ出さないよう、普段から徹底しろ」


そんな雰囲気とは到底そぐわない棘塗れの皮肉に、私は思わず声をのんだ。
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