エリート警視正は偽り妻へ愛玩の手を緩めない【極上悪魔なスパダリシリーズ】
「だが、警視監に勧められたら、断れな……」


やや呂律が怪しい声で、独り言みたいに呟くのを聞いて、私はきゅっと唇を結んだ。
警視監というのが、警視正である彼の上司なのは聞かなくてもわかる。


「上司の勧めだから、苦手なのに飲んだんですか?」


質問を重ねながら、床に立て膝をつく。
純平さんは無言で頷いて返してくれたけど、私は小さく溜め息をついた。


「そういうの、パワハラって言うんじゃ……」

「警察組織では、大事なんだよ。もっと、上に行くために……。パワハラじゃない。必要な服従だ」


口調はふわふわと不安定なのに、そこに込められた確固たる意思を感じて、口を噤んだ。
私が黙ったからか、純平さんは皮肉気な笑みで口元を歪める。


「憐れんでるか。それとも、バカにしてるか?」


目元が見えないから、彼が今どんな表情を浮かべているかわからない。


「い、いえ」


私は無意識に背筋を伸ばし、否定した。
警察組織は、昔気質な上下社会だと知っている。
警察官僚一族に生まれた純平さんにしたら、なにも不思議なことじゃないんだろう。
だけど彼は、「ふん」と鼻を鳴らす。


「いい。お前の理解など、求めてない」

「そんな」
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